「性別違和」のサインを米専門家が解説

What Is Gender Dysphoria? Definition, Signs, What It’s Like (womenshealthmag.com)

「性別違和」のサインを米専門家が解説(ウィメンズヘルス) – Yahoo!ニュース

ジェンダーの幅は、ときと共に変化するものとして理解されるようになってきた。受容、教育、政策の面では大いに改善の余地があるけれど、ジェンダーアイデンティティ(性自認)やトランスジェンダーに関する認識は、間違いなく高まっている。

とりわけ性別違和は、アメリカの陸上競技選手のケイトリン・ジェンナーや俳優のエリオット・ペイジがカミングアウトしたことで、大きな注目を浴びている。

オプラ・ウィンフリーとのインタビューのなかでペイジは、自分の正しいジェンダーが世界に認識されていないという苦痛から、映画のプレミア試写会や試写会後のパーティーでパニック発作が起きたときのことを語った。

新作映画の発表ともなると「世界中で、すごい数の記者発表とプレミア試写会をするわけですよ。どのイベントにも、ドレスを着てハイヒールを履いて参加しました」。映画『インセプション』のPRでは、マネージャーからパーティー用ドレスを何着も渡されて「気が狂いそう」になったそう。

「自分でいやいや選んだドレスを頑張って着ていたのに、なかに入ると『どうぞ新着を見てください』といった感じで、ドレスが3枚も並べてあったんです。もう、気が狂いそうでしたね」と彼は当時を振り返る。「映画のワンシーンみたいでしたよ。現実の話とは思えなかった」。その夜に行われた『インセプション』のプレミア試写会とパーティーのあとで倒れたことに関しては、「ああいうのはしょっちゅうです。大抵はパニック発作と相まって起こります」と話した。

ジェンナーもまた、アスリートとして性別違和に悩まされてきたことを明かした。「オリンピックに向けたトレーニング中の自分は、ケイトリンとかけ離れていました。自分のジェンダー問題を可能な限り無視しようとしましたが、無理でしたね。性別違和は、鎮痛剤を飲めば消えるものでも、寝れば治るものでもありません。逃れられない問題なんです」

このような気持ちや経験を医学用語では「性別違和」と呼ぶけれど、その意味は一体? 今回は、アメリカ版ウィメンズヘルスからサイン、診断、治療法と併せてチェックしていこう。

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

性別違和とは?

性別違和は、個人のジェンダーが出生時に割り当てられた性別、体、生殖器と合致しておらず、それを本人が自覚し、違和感を覚えることです」と説明するのは、心理療法クリニック『Evidence Based Therapy Partners』創業者兼エグゼクティブディレクターで臨床心理士のジェシカ・シュナイダー博士。 アメリカ精神医学会によると、ジェンダーアイデンティティ(性自認)は、自分が女性、あるいは男性、あるいはその両方であるという生まれ持った感覚であり、ジェンダーを一切持たないのも性自認の1つ。 それに対してジェンダーエクスプレッション(性表現)は、服装やマナーを通したジェンダーの表現。自分の見た目や振る舞いを文化や社会の期待に合わせなければならないというプレッシャーを感じ、性自認と性表現が合致しないこともある。 この不一致は、ときとして耐え難い心痛となる。「出生時の性別が身体的な特徴からハッキリしていると、性自認に従って生きるのが難しくなり、苦痛や違和感が大きくなります」とシュナイダー博士。 ロサンゼルス小児病院青年期医学科の小児科医で、同病院トランスユース&デベロプメントセンター長のジョアンナ・オルソン医学博士によると、性別違和をもっとも感じやすいのは、性自認と性表現の差がもっとも大きいトランスジェンダーの人々。 アメリカ精神医学会によると、トランスジェンダーやほかのジェンダーの人が必ず性別違和を感じるとは限らない。でも、アメリカのフィラデルフィア小児病院ジェンダー&セクシュアリティ・ディベロプメントクリニックのコ・ディレクターで認定カウンセラーのナズニーン・ミーチャムによると、全体的に見て性別違和は、さまざまな理由で多くの人に影響を与える。

性別違和のサインは?

ミーチャムいわく性別違和と診断されるためには、子どもでも、10代の若者でも、成人でも、最低6つの症状がなければならない。DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)によると、その症状には以下のものが含まれる。
・その人が自認している性と性徴に相違がある
・生まれ持った性徴を取り除きたい、思春期の性徴の発育を防ぎたいという強い願望がある
・別のジェンダーの性徴を強く求めている
・別のジェンダーに強くなりたがっている
・別のジェンダーとして扱われることを強く望んでいる
・別のジェンダーの感情と反応をハッキリと見せている
DSM-5には、性別違和に関して次のような記述がある。「診断基準を満たすためには、その症状が臨床的に見て著しい精神的苦痛を与え、社会的機能、職業的機能、ほかの重要な機能を著しく損なっている必要がある」。オルセン医師によると、つまりこれは外から見た自分のジェンダーが間違っていると感じるだけでは不十分で、精神的に苦しんでいる必要があるということ。

性別違和はなにが原因で、いつ始まる?

オルソン医師によると、多くの人によって「ジェンダーは常に自分のあたりをさまよっているもの」。とはいえ、みんながみんなそうというわけでもない。 「とくにトランスマスキュリン(出生には女性という性別を割り当てられたけれど性自認は男性より)の子どもは、思春期の体の変化をきっかけに性別違和を発症するケースが多いです」とオルソン医師。そして、トランスフェミニン(出生時には男性という性別を割り当てられたけれど性自認は女性より)の子どもは、「ペニスを持って生まれたせいで、幼い頃からずっとミスジェンダー(本人の性自認とは異なるジェンダーを当てはめられること)されてしまいます」 かといって、それが全員に当てはまるわけじゃない。「性別違和は多重構造の複雑な問題です」とオルソン医師。

性別違和は時間と共に変わったり消えたりする?

ミーチャムによると、性別違和は間違いなく時間と共に変化する。どう変わるかは人それぞれで、例えば、性自認と性表現の不一致が解消されて、性別違和が軽くなることもある。 「周囲のサポートや環境、自分の体、自分を取り巻く世界は刻一刻と変化します。その変化に適合する過程で、性別違和が変化することは珍しくありません」 幼少期に性別違和を発症した人は、大人になるにつれ性別違和を感じなくなることもある。逆に10代になってから性別違和を発症した人が「出生時に割り当てられた性別のまま生きよう、その性別に落ち着こうとする可能性は低いですね」とオルソン医師。

性別違和が原因で生じうる問題は?

オルソン医師いわく性別違和を持つ人は、メンタルヘルスに“過度”の問題を抱えがち。その問題には以下のものが含まれる。

・不安障害
・うつ病
・自殺願望
・自殺未遂
・自傷行為
・社会からの孤立
オルセン医師によると、若い人の場合は学業に支障が出たり、社交的な場や人付き合いで苦労したりすることもあるので、サポートネットワークを見つけることが非常に重要。

性別違和は、どうやって診断される?

ミーチャムいわく性別違和の診断は、DSM-5に記載された性別違和の要件に沿って医師が下す。よって、相談するならジェンダーに理解のある医師が好ましい。 シュナイダー博士によると、性別違和の現れ方は人によって違うため、正確な評価をもとに正式な臨床診断が下りてから、適切なソーシャルサポート、治療オプション、保険や補助金など経済支援が提示される。

性別違和の治療法は?

性別違和の治療には、さまざまなオプションがある。「生理学的または医学的な治療法もあれば、ホルモン治療や外科治療もあります」とシュナイダー博士。 また、米国精神医学会によると、性自認と性表現に関する気持ちと経験を制限なく自由に探究する“オープン・エンデッド・エクスプロレーション”というアプローチが用いられることもある。このアプローチでは、セラピストの助けを借りる場合と借りない場合がある。 「治療法は、精神的苦痛がどのように現れているのかで決まります」とシュナイダー博士。「治療の多くは、その人が現実を生きやすくするためのもの。その現実をどうしたいのか、今後起こりうる問題にどう意味づけして、対処するのかを本人と医師が一緒に考え、決めていきます」 オルソン医師の話では、性自認と合致する性表現の形式(代名詞や名前など)を使うことで精神的苦痛が軽減するケースもある一方で、医学的な治療を好み、ホルモン阻害薬やエストロゲンやテストステロンなどの性ホルモン使用や乳房再建手術、顔面手術、生殖器の転換手術などの外科手術といった医学的な治療法を選択する人もいる。 いずれにせよ性別違和の治療目的は、その人が望む形で受け入れられ、生きられるようになること。性別違和によって人間関係が変わることもあれば、人間関係によって性別違和が生じることもある。 ジェンダーマイノリティを対象としたヘルスケア学術誌『LGBT Health』掲載の論文によると、家族や社会からの拒絶は、トランスジェンダーがメンタルヘルス問題を抱えてしまう最大の要因の1つなので、家族の絆を深めたいときやパートナーと上手く付き合っていきたいときは、家族療法やカップルセラピーを通して協力的な家庭環境をつくってほしい。

性別違和と上手く付き合うためのアドバイス

オルソン医師によると、国連人権理事会のオンラインリソースや、LGBTQの若者を危機的状況から救う団体『The Trevor Project』は、心の支えとなるコミュニティを見つけるうえで役に立つ。大きめの都市では、交流会のあるグループが見つけられるかもしれない。ミーチャムの話では、戸籍上の名前やジェンダーを変えるのも、自認しているジェンダーを大切にするうえで有効。

性別違和と思われる場合には、この障害を専門とする医師や専門家に助けを求めることが大切。オルソン医師がいうように「ちゃんと支援は受けられますから」