女子トイレ侵入、取り調べで「性自認は女性」と供述…一人で悩んでいたトランスジェンダーだった?

取り調べで「性自認は女性」と供述 女性トイレや女湯に女装して侵入した疑いで書類送検 トランスジェンダーへの誤解や偏見に繋がる恐れ(ABCニュース) – Yahoo!ニュース

 大阪市内の女性トイレや女湯で去年、「性自認は女性」と自称する利用客が通報されるというトラブルが、2件起きました。
 大阪府警は、今年1月、それぞれの利用客を、建造物侵入の容疑で書類送検しました。管理者の許可なく女性用の施設に入ったという疑いです。
 トランスジェンダーに詳しい専門家や当事者は、「事件を受けてトランスジェンダーが誤解される恐れがある」と注意を呼び掛けています。

事件1「女性トイレに女装をした男が入っている」

 大阪府警によると、大阪市内の商業施設から「女性トイレに女装をした男が入っている」という通報が去年、複数回ありました。
 捜査員が警戒していると、女装をした男性に見える施設利用客が女性トイレに入り手を洗っていたため、任意で事情聴取。利用客は40代で、戸籍上は男性でした。
 
 利用客は警察に対し、「子どもの頃から性の不一致を自覚していて、成人してから人知れず女装をするようになった。いけないこととわかっていたが、女性として女性トイレを使いたかった」と供述。自分が心と体の性が一致しないトランスジェンダーであることを説明しました。しかし、医師の診断書はなく、性別適合手術も受けていませんでした。職場では男性として働いていて、休日に女装し、女性トイレを利用していたということです。

 施設側には「週末のたびに女性の服を着た男性がトイレを使っていて怖くて利用できない」という苦情が寄せられていました。府警は今年1月、正当な理由がないのに女性トイレに入ったとする、建造物侵入の疑いで書類送検しました。府警幹部は「施設には性別を問わず利用できる多目的トイレもあった。苦情を受けているので罪に問える可能性がある以上、送検する必要がある」と述べ、検察に起訴の判断をゆだねる意見をつけたということです。

事件2「女湯に入っている男性を確保している」

大阪市内のスーパー銭湯で去年9月、「女湯に入っている男性を確保している」と施設側から大阪府警に通報がありました。
 府警によると、通報されたのは40代の利用客で、戸籍上は男性。かつらをかぶって化粧をするなど女装をし、下半身には透明のフィルムを貼り付けて入浴していました。女性客からフロントに「男っぽい人が女湯にいる」と苦情があったそうです。

 40代の利用客は任意の調べに対し、「性別は男だが心は女。以前から女性として女湯に入りたいと思っていた」と、自分がトランスジェンダーであることを主張していました。
 ところが途中から、「私はLGBTではない。女装をしている自分に興奮する。女湯に入り女装の完成度を確認したかった」などと供述を変えたため、トランスジェンダーを装っていた男性であることがわかりました。「性的指向も女性で、男性には興味がない」とも話しているということです。

 府警は今年1月、自分の欲望を満たすために無断で女湯に入ったとする建造物侵入の疑いで40代の男性を書類送検。2月2日に男性は略式起訴され、罰金10万円の略式命令を受けました。

 こうして女湯の事件は決着が着きましたが、捜査関係者は女性トイレの事件について、「本当にトランスジェンダーかどうかは最後までわからなかった」と語りました。

 トランスジェンダーに詳しい専門家や当事者は、今回の2つの事件をどう思っているのでしょうか。話をきくと、「トランスジェンダーが自分本位で法を破る人たちであるかのように誤解されてしまう恐れがある」という懸念の声が聞こえてきました。

「女装した痴漢=トランスジェンダーではない」「女性トイレの事件は一人で悩んでいた可能性」

 性別に悩む3000人近いトランスジェンダーが受診している岡山大学病院ジェンダークリニックの医師・中塚幹也さんは「女装した痴漢と、女性として生きたいというトランスジェンダーは、見た目で区別がつきにくかったとしても、決して同じではない」と強調します。

 「トランスジェンダー女性は、痴漢に遭遇したら思わず悲鳴をあげるような人が大半です。そんな人たちが痴漢として女湯に入ろうとすることはありません。女装した痴漢は昔からいます。女装した痴漢とトランスジェンダー女性を同一視するのは間違っています」

 女湯の事件については、
「痴漢目的ではなかった可能性はあるものの、心は女性という言葉に騙されずに犯罪を取り締まることができてよかった」と、警察の捜査を評価しました。
 女性トイレの事件については、本当にトランスジェンダー女性によるものだったとしても、多くの当事者から「私たちは気を付けているのに」と非難されるような行為だったと指摘します。

 「当事者の多くは、家から一歩出た瞬間から、誤解を受けないようにと非常に注意を払って生活しています。膀胱炎になるほどトイレを我慢する人もいます。外見が男性的な状態でも、性自認は女性で女性トイレを使いたいということであるのなら、必要な人にカミングアウトをして理解を求めることがどうしても必要になります。公共の施設は最もハードルが高いので、まずは身近な場所から始めるべきだったと思います

 中塚さんは、トランスジェンダーであることを誰にも打ち明けられず、一人で悩んでいた可能性もあると推察。

 「他の当事者やクリニックに相談できれば、今はやめておいた方がいいなどのアドバイスが受けられただろうし、自分らしく生きるための他の方法も見つかったりして、防ぐことができた事件だったと思う」と話しました。

「女性が安心して暮らせる社会は、トランスジェンダー女性も安心して暮らせる社会であり、対立するものではない」

21歳で性別適合手術をし、23歳で戸籍上の名前と性別を女性に変更した河上りささん。「女性が安心して暮らせる社会は、トランスジェンダー女性も安心して暮らせる社会であり、対立するものではない」といいます。

 「女性トイレや女湯に男性が入ってきたら、私も怖い。トランスジェンダーだけが性犯罪に巻き込まれないなんてことはあるのでしょうか?女性として、女性が安心して暮らせる社会を望みます」

 河上さんは、自分の体が男性であることに対して、死にたいと思うほど苦しんできたそうです。女湯の事件については、「大嫌いな体を人目にさらしたくなかったので、そもそも公衆浴場を利用したいと思わなかった」と手術前の自分を振り返ったうえで、
 「もし、トランスジェンダーを男性の体のままお構いなしに女湯に入ろうとする人たちと思われているのなら、それは誤解だし、あり得ない」
と注意を呼びかけます。

 女性トイレの事件については、「周囲から女性と見られるようになるまでは女性トイレの利用を避けるべきだった」と考えています。
 河上さんは、見た目が女性になるにつれて男性トイレで苦情を受けるようになり、周囲の勧めで女性トイレを使うようになったそうです。それ以降は一切トラブルがないそうで、見た目の性別に合わせて利用する必要性を感じたということです。
 
 ただ、この問題は、トランスジェンダーに限った話ではないといいます。

 「ボーイッシュな女性が女性トイレを使ったり、女装好きな男性が男性トイレを使ったりしても、トラブルに遭う可能性があります。性別で区別しない誰もが利用できるトイレがあってもいいのではないでしょうか」

 河上さんは、トランスジェンダーのためだけの施設や制度は特に望まないが、誰もがメリットを感じられるものなら望みたいそうです。

 「ある旅館が、感染対策として、男湯女湯をやめて時間を区切って貸し切りにしていました。男女に分けないことで誰もが利用しやすいものになる一つの例だと感じました」

「施設管理者がルールを定めて明示すれば解決できる」

LGBTの当事者の声を国に届ける活動をする「LGBT法連合会」の事務局長、神谷悠一さんは、女湯の事件について、施設側が利用ルールを明示することでトラブルを回避できるといいます。

 「男性器がついている人は女湯を利用できないとか、施設管理者がルールを定めて利用者に明示すれば解決できる問題だと思います」

女性トイレの事件については、「見た目で線引きしてルールを定めることは、現時点では難しいし、トラブル回避につながらない」として、「オールジェンダートイレや多目的トイレの普及が解決策の一つ」と述べました。

 しかし、多目的トイレがあったにも関わらず起きた今回の事件。神谷さんは、「至るところで男女の区別が求められる社会のなかで、トランスジェンダーが自認する性と一致した施設を利用したいと思ってもおかしくはない」と、動機の部分については一定の理解を示しています。そして、人知れず「女装」をしていたり職場では男性として働いていたりしていたという行動の背景として、LGBTを取り巻く差別の実態を挙げました。
 
 「トランスジェンダーは、カミングアウトをすることで就職できなかったり、リストラされたり、セクハラをされたりする現状があります」

 神谷さんは、差別のない社会に向けての法整備を求めていますが、それはマジョリティも含めたすべての人が恩恵を受けられるものでなければならないと考えています。

取材後記

 当然のことですが、トランスジェンダーは男女という性別の分類に対して悩んでいるだけで、一人の人間としてなんらかわりません。しかしながら、差別され、人に打ち明けられずに孤立してしまう現状があることがわかりました。
 周囲の目を気にしながら暮らしているトランスジェンダーですが、今回のような事件報道があると、まるで犯罪者のように言われることもあるといいます。ある当事者は、「『トランスジェンダーのトイレ問題』というような取り上げ方は、なんの解決にもならないばかりか、かえって注目されてしまい、ますます利用しづらくなる。放っておいてほしい」と苦しい胸のうちを明かしました。
 一部で、「トランスジェンダーの人権を尊重すると性犯罪が取り締まれなくなる」という主張がありますが、当事者たちは、性犯罪が取り締まれなくなるような社会をマジョリティと同様に望んでいません。誰もが安心して利用できるユニバーサルデザインの検討や、差別をなくすことが求められています。


「まず身近なところから始めるべき」というのは、身近な女子トイレの利用から始めろという意味なのでしょうか?

多目的トイレがあっても起きたこれらの事件、あくまでも女子トイレに侵入したいという強い意思を感じますね!

この問題について、あなたはどう思われるでしょうか?