「4歳で性別変更可」スコットランドLGBT教育の衝撃 学校での性別や名前を親の同意なく変えられる

「4歳で性変更可」スコットランドLGBT教育の衝撃 学校での性別や名前を親の同意なく変えられる (msn.com)

「4歳で性変更可」スコットランドLGBT教育の衝撃 | ヨーロッパ | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

 「スコットランドは、(公立)学校のカリキュラムにLGBTの生徒が共に学ぶインクルーシブ教育を組み込んだ世界初の国として先駆けとなったことを誇りに思う。そうすることで、私たちは若者が多様で包摂的な社会で潜在能力を最大限に発揮し、繁栄するのを助けることができる」

 今年9月、スコットランド自治政府のクレア・ホーヒー児童大臣はこう強調した。

 スコットランドでは、LGBTインクルーシブ教育に関する基本的な知識を習得するeラーニングコースと、LGBTインクルーシブ教育リソースにアクセスできるツールキットを、すべての学校スタッフに対して提供する。さらにLGBTの若者と共存する若い世代を支援するための情報のためのリソースを備えた専用のウェブサイトも立ち上げる。

 スコットランド自治政府はLGBTの未成年者のいじめや差別を受け、2017年にLGBTインクルーシブ教育ワーキンググループを設置し、問題の改善に取り組んできた経緯があり、学校環境における同性愛嫌悪、バイフォビア、トランスフォビアに効果的に対処するのに役立つリソースを開発したと自信を示している。

学校教育のガイドラインに「物議」

 実は8月12日、スコットランド自治政府はイギリス国内に衝撃を与える方針を発表していた。生徒が学校での性別や名前などを保護者の同意なしに変更できる(法的性別は変わらない)というLGBTインクルーシブ教育のガイドラインだ。スコットランドの初等教育は4歳半~5歳半から始まる。つまり4歳の子どもでも、自らの意思で性別の変更が可能だ。

 これを報じたイギリス保守系高級紙のテレグラフは、「物議を醸すガイドライン」と書いた。

 テレグラフが懸念するのは、性の変更を求める児童が両親に知らせたくない場合、児童の意思を尊重すべきという方針だ。当然、親の知らない間に子どもが性を変えることもありうる。

 スコットランドの著名な弁護士、エイダン・オニール氏は最近、「親に通知せずに性別を切り替えたいという子どもの希望を支持する学校は違法である可能性がある」との法的見解を示したが、教師側は子どもの希望を尊重するように求められている。

 ガイドラインではそのほか、教師は性別変更を希望する生徒を問いただしてはならず、新しい名前と代名詞(彼、彼女)を尋ねることになる。教育に使用する資料や授業で教材を読む際に、トランスジェンダーの性格や役割モデルを含めるべきと示している。

 また政府は、トランスジェンダー(体と心の性が一致しない人)の生徒は、自ら選択したトイレや更衣室を使用し、ジェンダーニュートラルな制服を開発すべきとしている。

スコットランドでも賛否両論

 スコットランドのLGBT擁護団体は、この新方針について、規則がすべての子どもたちの育成に役立つと歓迎している。しかし、反対派は「自分の性の明確な自覚を持つ子どもが、自分の性とは反対の性に関連する玩具で遊ぶ場合、逆にトランスジェンダーという誤ったレッテルを貼られるリスクがある」と警告している。

 またテレグラフは、フォー・ウィメン・スコットランドの共同ディレクター、マリオン・カルダー氏が「重要なことは、スコットランド政府が推進していることに危険なイデオロギーが含まれていることだ」と強い懸念を表明していると伝えている。

 カルダー氏は「これまでは、一般的に服装や好き嫌いなどを通じて子どもたちは男女の性別による役割分担を演じ、試すべきだと理解されていたが、この内容はその理解や児童の保護、親権の在り方を否定している」と指摘。さらに子どもに性転換の医療行為について教えるのは間違っているとも主張し、「子どもたちが健全とはいえない方向に進まされようとしている。それは生涯にわたる影響を与えかねない」と警告している。

 一方、スコットランド自治政府のシャーリー・アン・サマービル教育長官は、「このガイドラインはすべての生徒の権利が完全に尊重されることを保証しながら、学校がトランスジェンダーの若者をどのように支援できるか、その実践的な提案している。ジェンダーの移行を促進しようというものではない」と説明している。

 またガイドラインには「不注意なトランスジェンダーの開示は、若者に不必要なストレスを引き起こしたり、若者を危険にさらしたり、法的要件に違反したりする可能性があるので、子どもの見解や権利を考慮し、親や保護者と情報共有しないのが最善」と記されている。

 サマービル教育長官は「トランスジェンダーの若者は学校で多くの問題に直面する可能性があり、教師とスタッフは精神的、肉体的、感情的な健康をサポートする自信とスキルを持っている必要がある」という。そこに今回、インクルーシブ教育を包括的に学校カリキュラムに組み込み、教師や学校スタッフに豊富な情報を提供することが加わった形だ。

自分の性別が異なると認識する子は増加

 ガイドラインは、スコットランドの新学期に先立って、ヴァージン・グループの創業者として知られるビジネスマン、リチャード・ブランソンの長女ホリー氏(39)が、4歳から10歳まで少年として生きていたことを明らかにした数週間後に発表された。

 ホリー氏は過去を振り返り、自分の後に生まれた弟が親から愛される姿を見て、自分も男の子になりたいと思って男子の服装をすることにし、男子の排尿スタイルを真似ていたことを明かしている。ただ、それは10歳でやめて女の子であることを受け入れたという。

 イギリスのタブロイド紙、デイリー・メールによると、ホリー氏のような自分の性別が異なると認識する子どもが増えている。ロンドンのジェンダークリニック、Gender Identity Development Serviceに紹介されてきた若者の数は、2010~2011年で138人だったのが、2019~2020年には2748人に急増したという。

 多くの専門家は、子どもが何年にもわたって自分の中に異なる性を認識している場合、それはトランスジェンダーである兆候だと考えている。しかし、多くのトランスジェンダー患者を治療してきた心理療法士のボブ・ウィザーズ氏は「現在、この問題に関する13の研究によると、そうした子どもたちの約80%は治療しなくても生物学的な性別に戻ることがわかっている」と指摘している。

 イタリア中部の山岳地にある小国、サンマリノで9月26日、妊娠中絶の合法化の是非を問う国民投票が実施され、賛成が77.3%となったことを受け、政府は今後、法制化に取り組むことになった。

 アイルランドでは、2015年に実施された国民投票で同性婚合法化賛成が過半数を超え、合法化した。

 フランスは2013年に同性婚、および同性カップルの養子縁組合法化を決定、イタリアでも2016年に同性カップルに結婚に準じた権利を認める「シビル・ユニオン」法が議会で可決成立している。これに先立ち、スペインでは2006年に同性婚合法化が認められている。いずれの国も歴史的にローマ・カトリックが強い影響力を行使してきた国々だ。

 ローマ・カトリックのLGBTに対する公式のスタンスは、その存在は認め、差別や排除ではなく寄り添うことを重視している。ただ教義としては罪の領域に挙げ、バチカンは「同性婚は祝福できない」との公式見解を出している。人道主義者の教皇フランシスコ1世もこの声明に署名している。無論、同性愛者のカトリック信者グループ、New Ways Ministryなども存在し、同グループのフランシス・デバーナード会長は、教皇庁の声明について「驚くものではないが、失望した」と述べている。

 一方、イギリスでは英国国教会(アングリカン・チャーチ)が主流なのに対して、9月から正式に学校カリキュラムにLGBTインクルーシブ教育を導入したスコットランドには、スコットランド国教会が存在する。今は先進国に国教という考えはないが、影響力を持ってきた。第2勢力はローマ・カトリックだ。いずれもキリスト教の価値観を厳格に守ることが優先され、逆にいえばLGBTの人々を生きにくくしてきた。

弱まる教会の影響力

 21世紀に入ってからの新たな事態をわかりやすく解説すれば、妊娠中絶や同性婚、LGBT支援を支える人権思想が、宗教的戒律を上回っているということだ。それは皮肉にも人間1人1人は神にとってかけがえのない存在とする基本的人権思想を生んだキリスト教の戒律を否定している。

 背景の1つは信仰者の激減が挙げられる。2018年に発表されたブリティッシュ・ソーシャル・アティテューズの調査で、自分がイギリス国教会に属していると名乗るイギリス人の割合が記録的低水準となり、過半数が自分は無宗教としていることが明らかになった。その調査でスコットランド国教会信者と自認するスコットランド人の割合も、2002年の調査の時に31%だったのが18%に低下している。

 フランスでは何と教会に通うカトリック信者が20世紀末の調査で16%しかなく、今ではそもそも神を信じない人が国民の7割に達しているという数字もある。つまり、ヨーロッパでは教会の影響力が弱まり、その厳しい教義への反動が、妊娠中絶や同性婚合法化、LGBT擁護の政治的動きに拍車をかけているといえる。